音楽や演劇の授業を行う特別校舎には合奏室(リハーサル室)があります。壁は防音で内側に音響板が張ってあります。
部屋前方のホワイトボードの前に指揮台と指揮椅子、それを取り囲むように椅子と譜面台が配置されています。指揮台の置いていない壁側は3段の段が作ってあります。そこにも椅子と譜面台が置いてあります。合奏室はいつでも合奏練習ができるように作ってあるのです。
遅れて入った私は急いで楽器を準備して、クラリネットスペースの端の椅子に座りました。カリキュラムによると今日の授業はスケールと音符。先生も出席をとって、今日の授業の説明をしたところのようでした。
最初は楽器の構え方とアンブシュアの復習です。楽器ごとに先生の指示の下で構えて音を出しました。クラリネットは1度でOK。
次は指使いです。B♭,C,D,E,Fを出します。先生は丁寧に各楽器の指を教えてくれました。フルートとサックスとクラリネットは経験者がいるために、先生が指の位置を確認しただけでした。フルート経験者はたまたま右隣になったハンサムな男の子。彼がフルートの指使いの見本をパートに見せている間、金髪に隻眼で彫刻のアポロンのような容姿に、他楽器なのに思わず見入ってしまいました。
指使いを覚えると音階です。ここで先生は指揮の見方を教えました。
先生が構えると楽器を構えること。
先生が手を振り上げるときに息を大きく吸い込み、手を下ろすと同時に吹き始めること。
先生が指を結ぶと息を結んで音を出さないこと。
先生が構えを止めるまで、楽器を構え続けること。
この3つの課程を音階の音を出しながら繰り返し練習しました。
可笑しかったのは初心者チューバくんと同じく初心者トロンボーンくん。構えが遅く、先生が手を下ろす前に椅子にダラリと寄りかかってしまうこと。先生が2回も注意を促さなければ姿勢は直りませんでした。
最後に音階を使って音符の勉強です。全音符(whole)、二分音符(half)、四分音符(quater)、八分音符(eighth)の名前と意味、そして手拍子によって長さを覚えました。手拍子は楽器によって長さが振り分けられて、先生の指揮にあわせて手を叩きます。左隣のクラリネットのおばさんはつられ易いタイプのようで、クラリネットは2分音符のはずなのに、四分音符からやがて八分音符になっていました。
また、音を出しての音符の練習では、休符を一人だけフライング。そのときの言い訳が、「私はみんなが休んでいるときも働き続ける真面目なタイプなの」と。あっけらかんとした態度に先生も苦笑いで「積極性は認めるけれど、休符で音を出してもらっては困るよ」と注意をしました。それからもいくつかの音符のパターンの練習でもずれ続ける彼女はどうやらリズム音痴のようです。
片付けのときに私に耳打ちをしました。「初めての楽器がやっと吹けるようになって、音階もリズムもできるようになると楽しいわ。」。先にそう言われてしまうと、「あなたずれているんですけど。」と注意ができませんでした。
私が初めてクラリネットを手に持ったのは遠い遠い昔のことでした。
吹奏楽部に入部したはずなのに練習中は体操着。なぜなら、まずは腹筋運動から始まるからです。そしてマウスピースでのアンブシュアの練習。次にタンギング練習。やっと楽器を組み立てられるようになって、音を出す練習。さらに指使いと音階練習。腹筋運動とアンブシュアから音階練習まで約1ヶ月かかりました。単調な練習だったにも関わらず休まずに部活に通っていたのは、演奏会に向けた練習をしている先輩方に憧れ、その練習の輪に入る日を心待ちにしていたからでした。
初心者の彼女がフライングをしてもリズムがずれても嬉々としてクラリネットを吹く姿に、私自身がクラリネットを習い覚えた頃を思い出しました。
授業の終わりに先生から認可コードをもらえたので、晴れてクラスの一員です。
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