2009-12-22

「蹴りたい背中」 綿矢りさ著

「さびしさは鳴る。耳が痛くなるほど高く澄んだ鈴の音で鳴り響いて、胸を締め付けるからせめて周りには聞こえないように、私はプリントを指で千切る。」
蹴りたい背中は以上の1行で始まります。

主人公の長谷川初美、あだ名はハツは高校1年生。中学3年から集団に溶け込めず水に浮く油の生活を送っています。理科の授業のグループ分けでハツはクラスに溶け込めなかったにな川と関わるようになります。にな川とハツとの関係を、中学からの友人絹代はハツの恋愛と茶化します。

ハツは一貫して孤独です。孤独なハツに対して友人の絹代は集団の代表者。蹴りたい背中では冒頭の1行から最後まで集団と孤独が対比されます。
自分の個性を殺して集団の1員になった絹代をハツは羨みながらもバカにした態度を取ります。ハツにとっての理想は自ら選んで孤独になったにな川です。集団に入りたくても入れないハツと反対ににな川は集団と孤独に無頓着です。
ハツは学校生活で1人取り残されて孤独を噛み締めています。けれど集団に入るための努力はしたくない。妙なプライドばかり先に立てて、人との繋がりで肝心なところを見落としています。それは孤独と好悪は別だということ。言い換えれば、ハツはクラスのどのグループにも属していないだけで、クラスメートに嫌われてはいないこと。
にな川は孤独と好悪の区別はついているから、1人でいても平気です。
絹代は集団に属しているけれど、そのグループはクラスの嫌われ者の集まりです。唾を飛ばしてしゃべるから唾本と影であだ名をつけられた塚本もグループの1人。
絹代は自分が属している一癖あってクラスに溶け込めない人ばかりのグループにハツを誘います。ハツはそのグループの一員になることを嫌がります。プライドが邪魔をするのです。傍目から見るとハツも絹代も塚本もクラスに溶け込んでいないのは変わりがないのに。

ハツのコンプレックスを刺激するにな川の背中を蹴ることで孤独の鬱憤を晴らそうとします。

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