2008-07-18

アメリカ流議論

ある日の午後にバスに乗りました。お客さんは私を含めて6人でした。私が乗ったバス停の次に止まったバス停で3人が降りて、1人が乗りこんできました。お客さんは私を含めて女性3人、男性1人となり偶然に前半分の座席にコの字型に座りました。

新しく乗り込んできた30代の女性は席に座るなり運転手に乗車拒否された苦情を申し立てました。
「あなたは私を乗せてくれて親切ね。あなたの前に2台も乗車を拒否されたのよ。」
相手を一旦褒めて、問題点を述べる辺りがアメリカ流交渉術の基本。

座っていた50代女性が前述の女性の言葉の後を継いで
「私はこのバスに乗るために30分以上待たされたわ。確か、バスの運行時間は15分おきよね。」
感情的にならずに淡々と事実をありのままに述べました。

運転手は、運転手がバスの乗客数からこれ以上乗せると危ないと判断すれば乗車拒否ができること、LAは車社会であり道路事情によってバスの運行時間がずれていくこと、を申し訳なさそうに女性たちに伝えました。

乗車拒否された女性は「バスは空いていたから、乗せてくれてもよかったんじゃない?」と食い下がりました。
運転手は、市の助成金が減りバスと地下鉄の経費削減をしリストラを行った。そのため運転手が足りなくなった。そして、これまでは路線ごとだった運転手を地区ごとの時間制配置にした。路線毎だと始点ターミナルから終点ターミナルで勤務が終わるけれど、地区ごとの時間制だと運行途中で時間がくれば、お客を乗せるのをやめて交代ターミナルへ直行しなければならなくなった。「たぶん、乗車拒否した運転手は、道路が混んでて持ち時間が終わってしまったのだろう。それでターミナルへ急いでいたんだよ。」と言った。

日本ならここで話は終わりだろう。しかし、ここはアメリカ。私を除いた女性2人と男性1人と運転手の侃侃諤諤が始まりました。
「どこかの国で街中に入る車を規制しているって聞いたわ」
「アメリカは自由の国だよ。そんなことしたら車の所有者が街中に入る権利を主張するよ。私は病院や学校など公共の建物を除いた街中にある企業施設の駐車場を減らして、バスを使うことを推奨したらどうかと思うんだけど」
「官庁と企業が癒着していて、条例で企業施設に駐車場を併設するのを許可しているからダメよ。それなら、、、」
と言った調子で道路の混雑を減らす方法に始まり、果ては税金の有効な使い方まで、議論はとどまるところを知らず。私は途中下車をしたので議論がどこまで進んだか心残りでした。

議論の中で気がついたのは、相手の意見を否定したら代案をだすこと、否定するときは具体的に理由を述べること。この繰り返しによって形の整った対話式議論となり、おしゃべりが実のあるものになるのです。

数年前に当時財務大臣だった竹中氏の講演会で、氏は「私は責任ある立場として考えに考えた議案を提出する。それに対して批判をするなら否定する具体的根拠と代案を示していただきたいと思う。」とおっしゃっていたのを思い出した。

相手の言っていることをただ「ダメ」否定するのは簡単です。けれどそれでは何の実りもありません。否定するならその理由を明確にし、代案を示す。議論はその積み重ねによって結論に導かれるのです。

バスの中で提案、否定、代案の波に乗れなかった私は沈黙を守りました。耳と頭は働かせつつ。いつか私も英語で賛成か反対を理由と共に述べて、反対のときは代案を示していけるようになりたいと思いました。

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